不動産研究 61-3

第61巻第3号(令和元年7月) 特集:九州の経済と不動産市場

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第61巻第3号

特集:九州の経済と不動産市場

2010年代における九州の景気・投資動向

公益財団法人九州経済調査協会事業開発部 研究主査 小栁 真二

 近年の九州の景気および投資の動向を分析した。2012年末以降回復した九州経済の牽引役は、輸出と生産に加え、それに応じた製造業の設備投資、さらに非製造業の設備投資である。製造業の設備投資は、生産活動の国内回帰の流れもあり、輸出拠点としての九州の性質を強化している。非製造業においては、県庁所在地において都心再開発や、インバウンド対応のための宿泊施設等への投資が増加しているが、供給過剰となる懸念もある。一方、人材不足という人口構造上の問題に対処するための省人化投資は、景気循環によらず今後も継続していくとみられる。

【キーワード】 九州、景気動向、製造業、都市開発、人材不足
【Key Word】 Kyushu, Economic trend, Manufacture, Urban development, Lack of human resource

九州の産業集積と地域イノベーション

九州大学大学院経済学研究院 准教授 與倉 豊

 知識経済化が進む現在において、半導体産業や自動車産業の集積で知られる九州においても、イノベーションをどのように創出していくかが重要な課題となっている。本稿では、イノベーションを生み出す人材の集積状況を確認したうえで、地域新生コンソーシアム研究開発事業のように地域を単位とした科学技術振興政策を事例として、共同研究開発ネットワークの空間的な拡がりや域内・域外の相互作用関係を検討し、九州の地域イノベーションの現状を明らかにする。また経済地理学の分野で注目を集めている関連多様性概念について検討を加え、九州の地域イノベーションのポテンシャルを評価し、産業集積の高度化のための課題を考察する。

【キーワード】 経済地理学、進化、産業集積、関連多様性
【Key Word】 economic geography, evolution, industrial agglomeration, related variety

九州で広がる観光と地域振興

九州産業大学地域共創学部観光学科 准教授 室岡 祐司

 観光と地域振興の広がりを読み解くためには、過去から現在における旅行者の動向と観光サービスを提供する企業や受け入れ地域の取り組みの双方からその現象を確認していくことが求められる。よって、本項は、九州観光の歴史を概観した上で、九州においても顕著な増加が見られる訪日外国人旅行者の動向から、九州観光の特徴と現状把握を行う。さらに、九州は「観光を九州の基幹産業」へ育てる目標を立てており、観光の広がりをどのように地域振興につなげていくのか、今後の課題について述べる。

【キーワード】 観光と地域振興、インバウンド、DMO、離島、復興

福岡市の不動産市況の現状
 -天神ビッグバンに必要な視点-

一般財団法人日本不動産研究所 九州支社長 山﨑 健二

 福岡市は日本の地方中核都市の中でもトップランナーとして走ってきた。政策面でもグローバル創業特区を打ち出し、豪華客船の寄港回数も国際会議の数も全国トップレベルを誇る。つれて土地価格の上昇も顕著で博多駅も天神もファンドバブル期の地価水準を凌駕するに至った。英国の雑誌モノクルでも住みやすい都市ベスト25に取り上げられた。ファンドバブル期には米国をはじめシンガポール、オーストラリア等の外資が直接不動産を購入した。福岡市の3点セットと呼ばれるホテルシーホーク、ヤフードーム、ホークスタウンをGICが所有していたのは有名である。ここに来て福岡市は“天神ビッグバン”という大胆な施策を打ち出し戦略的に天神地区の老朽化したビルの建替えに取り組んだ。福岡市がアジアの都市間競争に生き抜いていくには何が必要か。天神ビッグバンの政策に必要な視点は何か。不動産鑑定士の目線から考察する。

【キーワード】 天神ビッグバン、地価公示、直行便、インターナショナルホテル
【Key Word】 Tenjin Big Bang, Land Price Announcement, Direct Flight, International Hotel

調査

最近の地価動向について
 -「市街地価格指数」の調査結果(2019年3月末現在)をふまえて-

平井 昌子

 当研究所は2019年3月末現在の「市街地価格指数」を2019年5月27日に発表した。
 「市街地価格指数」からみた最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

  • 「全国」の地価動向は、全用途平均(商業地・住宅地・工業地の平均、以下同じ)で前期比(2018年9月末比、以下同じ)0.5%となり、昨年3月の調査で上昇に転じて以降、上昇傾向が続く堅調な動きとなっている。
  • 地方別の地価動向は、一部の地方を除き、全般的に堅調な動きとなっている。「近畿地方」や「九州・沖縄地方」等において、国内外からの観光客で賑わう地域では、商業地を中心に上昇傾向が続いている。また、「東北地方」、「関東地方」等、上昇傾向にある地方では今期も上昇が続いた。一方、「北陸地方」や「四国地方」では、未だ下落傾向が続いているが下落率は年々縮小傾向となっている。
  • 三大都市圏の地価動向を全用途平均でみると、「東京圏」は前期比1.0%上昇、「大阪圏」は同0.8%上昇、
    「名古屋圏」は同0.8%上昇となり、上昇傾向が続いている。
  • 「東京区部」の地価動向は、全用途平均で前期比2.1%上昇、商業地で同3.3%上昇、住宅地で同0.9%上昇、
    工業地で同2.3%上昇となり、全ての用途地域で上昇傾向が継続し、堅調に推移している。
    ※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率
     最高価格地:各調査都市の最高価格地の平均変動率
     東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
     大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
     名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
     六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸

【キーワード】市街地価格指数、全用途平均、地価上昇、下落幅縮小

「東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2019~2025年)・2019春」について

金 東煥・富繁 勝己・佐野 洋輔

 「東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2019〜2025年)・2019春」を4月25日に公表した。
賃料予測は、東京・大阪・名古屋のビジネス地区におけるオフィス賃貸の成約事例に基づいて、ヘドニック型の賃料指数を作成し、実質GDP等マクロ経済指標を含むオフィス賃料予測モデルの構築で行う。上記モデルに、日本経済研究センターのマクロ経済の予測値、新規供給量の予測値等を前提に、2019〜2025年の賃料及び空室率の動向を予測する。予測結果は、①東京のオフィス市場は、2019〜2020年の大量供給の多くが事前に内定される等の強い需要に起因して、賃料上昇が続く、2021年以降は、調整に入り、以降微増する。②大阪のオフィス市場は、新規供給が少ない状況と強い需要が継続するため、賃料上昇が続く。③名古屋のオフィス市場は、新規供給が少ない中、強い需要が続くため、賃料上昇が続くと予測された。

【キーワード】賃料予測、マクロ計量経済モデル、ヘドニック分析

最近の不動産投資市場の動向 -第40回不動産投資家調査結果(2019年4月1日現在)をふまえて-

愼 明宏

 当研究所は、「第40回不動産投資家調査」の結果を2019年5月28日に発表した。
 調査結果(2019年4月)の概要は以下のとおりである。

  • 第40回目となる今回調査では、不動産投資家の期待利回りは、前回比で「横ばい」となる用途や地区が多くみられた。
    日銀の量的緩和などアベノミクス以降、不動産投資市場は活況な状態が続いているが、投資利回りの過度な低下など不動産投資市場の過熱を懸念する声も一部にあり、こうしたことが影響したと考えられる。本調査で最も代表的な調査地区であるオフィス「丸の内、大手町」は前回と同じ3.5%となり4期連続での横ばいとなった(同地区は2017年10月調査以来3.5%が続いている)。一方、オフィスの中でも、東京の「虎ノ門」「西新宿」など、地方都市の「札幌」「仙台」「大阪(梅田)」「広島」などでは前回比0.1ポイント低下となり、「横ばい」と「低下」とが混在するまだら模様の状態となっている。他の用途では、東京のホテル(宿泊特化型)の期待利回りが前回比0.1ポイント低下したが、全体としては「横ばい」が多くを占める結果となった。
  • 不動産投資家の今後1年間の投資に対する考えは、「新規投資を積極的に行う」が94%で前回調査よりも4ポイント上昇した。一方、「当面、新規投資を控える」の回答は6%で前回調査より1ポイント低下した。
  • 世界経済に対する先行き懸念が一部で指摘されているが、国内の不動産投資市場に直接的に影響する懸念材料はまだ少ないとみられており、不動産投資家の積極的な投資姿勢が維持された。

【キーワード】不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲

論考

フィリピンの不動産事業環境

吉野 薫・田中 梨奈子

 日本企業による進出先として有望視されているフィリピンを対象として、マクロ経済の状況や法制度の概要を整理し、もって同国の不動産事業環境を考察することを目的としている。近年、海外不動産投資へと踏み出す日本企業が増加する中、今後成長が見込まれる東南アジアを進出先として注目する企業が多く、とりわけ公用語が英語であること、人口構成が若いことなどを特徴とするフィリピンは進出先として魅力的な国であるといえる。同時に、外国企業が不動産事業を展開する上での法制度面を整理することが重要であると考えられる。また本稿では、マニラ首都圏の不動産市場動向についても紹介する。

【キーワード】フィリピン、マクロ経済環境、不動産投資、不動産法制、外資規制

The Appraisal Journal Winter 2019

外国鑑定理論実務研究会 

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