不動産研究 62-3

第62巻第3号(令和2年7月) 特集:ESGと不動産

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第62巻第3号

特集:ESGと不動産

パリ協定・SDGsを実現するESG投資の潮流と不動産セクター
-GRESBによるインテグレーションとインパクト投資への進展-

CSRデザイン環境投資顧問株式会社 代表取締役社長 堀江 隆一

ESG投資は、近年ではパリ協定とSDGsを実現することを目的としている。不動産においては、機関投資家はGRESBを活用して、投資対象の不動産会社・ファンドのESGに関するスクリーニング、精査、投資後のエンゲージメント、モニタリングを行っている。これを受けて、投資される側の不動産会社・ファンドのESGに関する取組みも、気候変動、健康と快適性などの分野を中心に進展している。ESG投資の発展形としては、投資リターンを確保しつつ、SDGsの実現に貢献するポジティブ・インパクト投資の考え方が提唱され、実践が始まっている。コロナウイルス禍後においては、気候変動に加えて社会的危機への対応力を含めたレジリエンスや、従業員やテナント(入居者)の健康・労働安全衛生への配慮がより重要になると思料する。

【キーワード】 ESG 投資、気候変動、SDGs、GRESB、ポジティブ・インパクト投資

REIT運用とサステナビリティ
-サステナビリティと収益性の両立

ジャパンリアルエステイトアセットマネジメント株式会社 ESG推進室長 小林 英樹

  • 新型コロナウィルスの影響とUNEP FI不動産ワーキンググループにおける議論について
  • JREITにおけるサステナビリティの運用とスポンサーとの協働について
  • 不動産業におけるCO2削減とアセットレベルでの改修によるZEB認証取得の可能性について
  • JREのCO2削減目標ほか新たな環境KPIの設定と戦略との関係、TCFD開示について

【キーワード】 J-REIT、脱炭素、ZEB、戦略、収益性
【Key Word】 J-REIT, De-carbonization, ZEB, Strategy, Profitability

オフィスビルの環境性能とウェルネス

早稲田大学 創造理工学部 建築学科 教授 田辺 新一

口減少・長寿社会と第四次産業革命が並行して進む我が国にあって、持続的にイノベーションを生むために、ひとりひとりが高い満足度を保ちながら実力を発揮して、多様な人材の間での知的融合を持続的に誘発していくことが求められている。また、業務部門における脱炭素化も地球規模で求められている。オフィスに求められる事項とは何か、ポストコロナも含めて考察した。

【キーワード】 脱炭素、ワークプレイス、知的生産性、室内環境、ポストコロナ
【Key Word】 Zero Carbon、Workplace、Productivity、Indoor Environment、post-COVID-19

不動産ESG投資とその経済性や不動産鑑定評価における考え方について

一般財団法人日本不動産研究所 業務部 次長 古山 英治

ESG投資やESG経営が世界的な潮流になっている。そしてそれは不動産の投資・保有・運営の各場面でも例外ではない。もはやESGへの配慮は不動産を取り扱ううえで必須の考え方だ。ESG投資と不動産の関係について整理し、ESG投資を体現する環境認証について紹介する。ESG投資の実践はコスト増だけではなく、経済的メリットをもたらし不動産価値を高めるのだろうか、そして不動産鑑定評価においてはどのように考慮すべきなのか、本稿にて論説したい。

【キーワード】 ESG 投資、ESG 不動産、環境認証、不動産価値、不動産鑑定評価

投稿

「自然災害伝承碑」からみる日本の歴史的災害と「地理院地図」の不動産分野への利用

国土交通省 国土地理院 総務部長 中島 正人

国土地理院が災害教訓の伝承を進めるため、新たな地図記号として制定した「自然災害伝承碑」は洪水、土砂災害、高潮、地震、津波、火山災害等の自然災害を対象としており、日本の歴史的な自然災害を俯瞰できるデータベースとなりつつある。この自然災害伝承碑を用いて、日本の歴史的災害の地域での被害状況や教訓、災害の分布を伝える。あわせて、国土地理院のウェブ地図「地理院地図」による標高・自然災害伝承碑の確認、色別標高図・白地図の作成等の機能を紹介する。

【キーワード】自然災害、津波、国土地理院、地理院地図、標高
【Key Word】 natural disaster, tsunami, Geospatial Information Authority of Japan, GSI maps, elevation

論考

阪神・淡路大震災復興における土地区画整理事業決定過程に関する考察

白石 秀俊

阪神・淡路大震災の発生から25年が経ち、神戸市をはじめとする被災地は復興を遂げた。被災地では現在でも住民やまちづくりの専門家によりその経験を伝える活動が行われ、震災復興土地区画整理事業についても議論が行われている。本稿では、震災25周年を契機として、阪神・淡路大震災後の都市計画決定と土地区画整理事業の経緯を振り返り、①震災復興手法としての土地区画整理事業の歴史と阪神・淡路大震災での活用、②事業実施地域の範囲の決定、③住民意見の反映、④地震発生から都市計画決定までの時間的猶予、について検討した。また今後の教訓として、まちづくりの課題と将来像を平常時から行政と住民が共有することの重要性等を整理した。

【キーワード】阪神・淡路大震災、復興、2段階都市計画、土地区画整理事業
【Key Word】 the Great Hanshin-Awaji Earthquake, reconstruction, two step planning determination procedure, land rezoning project

調査

最近の地価動向について
-「市街地価格指数」の調査結果(2020年3月末現在)をふまえて-

平井 昌子

当研究所は2020年3月末現在の「市街地価格指数」を2020年6月16日に公表した。  「市街地価格指数」からみた最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

  • 「全国」の地価動向は、全用途平均(商業地・住宅地・工業地の平均、以下同じ)で前期比(2019年9月末比、以下同じ)0.3%となり、上昇傾向が続いたが、上昇率は縮小した。
  • 地方別の地価動向は、「近畿地方」や「九州・沖縄地方」では、昨年まで観光インバウンド需要等を背景に地価は堅調に推移していたが、新型コロナウイルス感染症の影響による観光客の減少や経済活動の自粛等によって地価上昇は頭打ちとなり、上昇率は前期と比較すると縮小した。また「北陸地方」や「四国地方」は、昨年、ようやく長期にわたる下落から回復の兆しがみられたが、新型コロナウイルス感染症の影響により、一転して再び下落基調となった。
  • 三大都市圏の地価動向を全用途平均でみると、「東京圏」は前期比0.8%上昇、「大阪圏」は同0.5%上昇、「名古屋圏」は同0.4%上昇となり、上昇傾向が続いた。
  • 「東京区部」の地価動向は、全用途平均で前期比2.0%上昇、商業地で同3.0%上昇、住宅地で同1.0%上昇、工業地で同2.1%上昇となり、全ての用途地域で上昇傾向が継続したが、上昇率は縮小した。
     ※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率
       最高価格地:各調査都市の最高価格地の平均変動率
       東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
       大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
       名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
       六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸

【キーワード】市街地価格指数、全用途平均、地価上昇

最近の不動産投資市場の動向
-第42回不動産投資家調査結果(2020年4月1日現在)をふまえて-

愼 明宏

当研究所は、「第42回不動産投資家調査」の結果を2020年5月26日に発表した。調査結果(2020年4月)の概要は以下のとおりである。

  • 今回の調査では、新型コロナウイルス感染症の拡大により、不動産投資家の認識にどのような変化が生じたのかが注目されたが、その影響度合いはアセット毎に濃淡異なる結果となった。影響が大きかったのはホテルで、期待利回りは「東京」だけでなく、「札幌」「大阪」「京都」「福岡」「那覇」などの地方都市においても軒並み0.1 〜0.2ポイント程度上昇した。また、直近まで観光インバウンド需要が市場を牽引してきた都心型商業施設も、今回は「東京」「大阪」を含むほぼ全ての地区において期待利回りは「横ばい」となり、不動産投資家のリスク認識や様子見姿勢が鮮明となった。一方、オフィスや物流施設については、そこまでの変化はまだみられず、前回調査とほぼ同様に期待利回りは「低下」と「横ばい」が混在する結果となった。
  • 不動産投資家の今後1年間の投資に対する考えは、「新規投資を積極的に行う」が86%で前回調査よりも9ポイント低下した。一方、「当面、新規投資を控える」の回答は18%で前回調査より13ポイント上昇した。日銀を含む世界主要国の中央銀行の金融緩和により、不動産投資家の投資姿勢・投資意欲は、現段階において、大きな落ち込みはみせていないが、新型コロナウイルス感染症に係る社会や経済の混迷長期化リスク等、不動産投資市場は予断を許さない状況にある。

【キーワード】不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲

判例研究

不動産賃貸事業の勧誘に際しての不動産業者の情報提供・説明義務
-東京地裁平成28年10月14日判決・判例時報2359号55頁-

中原 洋一郎

不動産に限らず投資には常にリスクが伴うが、不動産投資は投資額が大きくなりがちなこと、また物件の個別性が強く、市場も必ずしも開放的ではないことから不動産業者と投資家との間に情報の非対称性が生じやすい。とりわけ個人所有の不動産はその個人のライフプランに大きな位置を占めることが大きく、結果として個人所有不動産の投資勧誘では情報提供に関して紛争を生じることが多い。本稿では不動産業者の説明責任等に関して不法行為に基づく損害賠償が認められた事案を通じて、紛争を事前に回避するために注意をすべき事項等について考察する。

【キーワード】不動産投資、不動産賃貸事業、説明義務、収支予測、修繕費

The Appraisal Journal Winter 2020

外国鑑定理論実務研究会

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