不動産研究 64-4

第64巻第4号(令和4年10月) 特集:森林・林業分野のこれから

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第64巻第4号

特集:森林・林業分野のこれから

日本林業の課題と展望-過去から現在、そして投資型林業の実現に向けて-
Current status and outlook on forestry in Japan

国立研究開発法人 森林研究整備機構 森林総合研究所 林業経営・政策研究領域長  久保山裕史

1980年から2010年にかけて、国産の素材価格は低下を続け、特に林業経営の収入源となる立木価格は大きく低下し、森林所有者は経営意欲を喪失した。人工林資源が充実しつつある中で、もうかる林業を通じて供給を拡大するには、国産材製品の競争力向上を通じて素材需要を拡大し、伐出・流通コストの削減を実現する必要がある。さらに、効率的な林業経営を可能にする投資型林業の実現に向けて、所有者や境界不明の林地解消、林地の適正な評価を可能にする情報整備や評価方法の標準化、それらに基づく円滑な林地売買市場の構築が求められる。

【キーワード】投資型林業、国産材製品の競争力強化、もうかる林業、所有権の集積、規模の経済
【Key Word】timberland investment, competitiveness of domestic wood products, profitable forestry, Aggregation of ownership, economies of scale

気候変動時代の森林経営の新たなビジョン
-環境・エネルギー政策の動向を踏まえて-
Updated vision of forest management in the climate change era
Considering the environment and energy policy development

公益財団法人 自然エネルギー財団 上級研究員 相川高信

気候変動時代に入り、森林経営にも大きな影響が現れている。気候変動対策としては、化石燃料からバイオマスも含む再生可能エネルギーへの転換、森林生態系の炭素ストックの維持・増大が基本である。それに加えて、追加的な吸収も必要であり、カーボン・オフセットに注目が集まっている。しかし、オフセット市場の位置づけと課題も踏まえ、吸収だけではなく、木材利用も含めた森林・林業セクター全体での貢献を考えることが重要である。さらには、炭素吸収は森林の価値の一つでしかなく、森林は、空間の利用やその他の生態系サービスの提供など多元的な価値を有している。今後は、森林の多元的な価値をデジタルデータ化し、オープンデータとして提供することでイノベーションを促し、収益化を実現すべくファイナンススキームの構築とともに検討する必要がある。

【キーワード】再生可能エネルギー、カーボン・オフセット、生態系サービス、オープンデータ、金融
【Key Word】Renewable energy, carbon offset, ecosystem service, open data, finance

これからの林業経営に求められるマネジメントの課題と人材育成
-「所有・経営・施業の分離」と森林資産の会計・ファイナンス-
Management Issues and Human Resource Development for Future Forestry Management
-“The Separation of Ownership, Management and Operation” and Accounting & Financial management of Forest Assets-

株式会社 鹿児島総合研究所 代表取締役社長 新永智士

ウッドショックや脱炭素社会の到来、GX推進を背景に国内の林業経営への注目が高まっている。国内林業は「所有・経営・施業の分離」が緩やかに進みつつあり、経営主体は森林所有者から林業事業体と地方自治体に移行している。国内林業の経営主体に求められるマネジメントは技術経営、組織経営、事業経営の3つに整理されるが、特にその収益性の課題から会計・ファイナンスが重要となる。森林資産の評価は、収益性を直接反映するNPV法等の収益還元法の採用が必要であり、割引率や生物資産故の成長率やその実態の正確な把握が課題となる。最後に森林資産価値を高める経営人材はアセットマネージャー等4つに分類され、既存の人材育成体系との乖離があり、会計・ファイナンス面の人材育成の強化が必要であることを示した。

【キーワード】 森林資産、林業経営、所有・経営・施業の分離、収益還元法、人材育成
【Key Word】Forest assets, Forestry management, Separation of ownership, management,and operation, Income capitalization method, Human resource development

国内外における森林投資の動向
-日本における森林投資の可能性を考えるために-
Recent Trend of Timberland Investment in and out Japan
The possibility of establishing Timberland Investment in Japan

一般財団法人 日本不動産研究所 研究部 上席主幹 西岡敏郎

日本の国土の6割は森林であり、森林は日本に残された貴重な自然資源であることは、しばしば指摘されることである。他方、北米やオセアニア地域では、大小様々な規模で、森林が個人あるいは機関投資家の投資アセットとして資産運用にも活用されているのに対し、日本では林業は「儲からない」、森林は「負の資産」と言われることも多く、実際少なからぬ森林所有者は自分が所有する森林に無関心であるという調査もある。本稿では、世界の森林投資の現状を概観し、日本における近年の森林政策の展開から、森林という資産が、投資アセットになる可能性について考察する。

【キーワード】 森林投資、森林政策、森林評価、ESG 投資、サステナビリティ
【Key Word】Timberland Investment, Forestry Policy, Timberland Valuation, ESG Investment,Sustainability

論考

中国マンション管理の実態
-中国マンション管理サービスのIT化によるスマート団地-

曹雲珍
 横浜市立大学大学院 都市社会文化研究科 客員教授 周藤利一

近年の中国では、IT情報技術やAI人工知能の普及が進んでおり、不動産管理業務のITの活用は一般的になっている。また、電子マネーの浸透率が高くなり、消費者は専用アプリを利用して買い物等日常生活活動を行うことが一般的になっており、不動産管理業者にとってITを活用することは、人件費の削減や業務の効率化を実現する重要なツールになりつつある。本稿は中国のマンション管理におけるITの活用について実例分析を含めて紹介するとともに、中国のマンション管理サービスの特徴と課題も整理する。

【キーワード】マンション管理サービス、マンション管理サービスのIT化、スマート団地

判例研究(114)

節税対策と節税対策行為者の意図
-最高裁判所第三小法廷令和4年4月19日判決・裁判所ウェブサイト掲載-

研究部 主席研究員 小西史憲

The Appraisal Journal Spring 2022

外国鑑定理論実務研究会

不動研だより

耐震・環境不動産形成促進事業の概要と当研究所の取り組み

研究部 次長兼特定調査室長 佐野洋輔

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