不動産研究 53-4

第53巻第4号(平成23年10月) 特集 : Jリート10年

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第53巻 第4号

特集 Jリート10年

Jリート10周年にあたって

石川 卓弥

場構造の転換を契機として創設されたJ-REIT市場の変遷と今後の展望
-10周年を迎えたJ-REITの更なる発展に向けて-

澤田 考士

日本においては、バブル崩壊を契機とする1990年代以降の不動産価格トレンドの変化を背景として、1990年代半ば以降に不動産証券化の諸制度が導入され、2000年の投資法改正によってJ-REIT制度が導入されることとなった。 J-REIT制度においては、規制による市場の公正性や透明性の確保や、上場市場における市場メカニズムによる市場規律の実現や適正な価格付けの実現が期待された。
J-REIT市場は、拡大と成熟の途上にあるが、2001年にスタートしてから今年で10周年を迎えるまでの間、 様々な局面を経験した。中でも、リーマン・ショックによる金融危機への直面は、J-REIT市場にとっては大きな苦難で会ったが、危機から得た教訓もある。リーマン・ショックに起因するJ-REIT市場の混乱が沈静化し、市場が正常化する中、今回の教訓をもとに将来再び生じ得る金融危機への対処することが重要である。
そして、J-REIT市場が10周年を迎え一層の拡大・成熟に向けた新たなステージに入る中、J-REIT市場の更なる健全な拡大・発展が実現し、J-REITが社会的に求められている役割をより一層果たしてゆくことが期待される。

 

キーワード :バブル崩壊、市場構造変化、不動産リスクのシェア、市場メカニズム、J-REIT、不動産証券化、市場の公正性、市場の透明性、国際金融危機からの脱却

 

J-REIT創設以後の不動産評価基準の変遷
-不動産鑑定評価基準の見直しから対応する処理態勢について-

德田 真紀・恩田 直人・水野 恭行

J-REITを中心とする不動産証券化の台頭、発展は不動産鑑定評価基準にも大きな変化をもたらした。当時は、いわゆる「土地神話」に支えられ、更地評価を中心とした不動産鑑定評価基準であったが、J-REITを中心に土地・建物一体として収益を生み、価値を高めるという、複合不動産の収益性が重視されていく中で、不動産鑑定評価基準においても、J-REITのニーズを満たすべく収益性を重視した基準の確立が求められた。この小論では、平成14年、平成19年の不動産鑑定評価基準の改正についてまとめると共に、その変化に対応する日本不動産研究所の処理態勢について述べることとする。

 

キーワード :不動産鑑定評価基準

オフィスビルのキャップ・レートに着目したJ-REIT市場10年間の変化特性

-東京都心部におけるオフィスビルの価格形成要因の推移と動向-

小松 広明

本稿では、東京都心部を対象として、オフィスビルのキャップ・レートに影響を与える価格形成要因を過去10年間にわたって観測し、当該変化特性について検討した。分析の結果、「駅距離」「築年」「規模」の3要因のうち、2005年から2007年の市場拡張期においては、「規模」要因がオフィスビルのキャップ・レートに最も大きな影響を与えていたことを明らかにした。また、近年においては、賃料の下落基調のもと、運用物件の入れ替えを背景として「築年」要因がリスクプレミアムを形成していることを示唆した。今後は、震災後の耐震性に対する関心の高まりと相まって、「築年」要因はオフィスビルのキャップ・レートに対して影響度を高めるものと予測される。

 

キーワード :オフィスビル、キャップ・レート、東京都心部
Key Word:Office Buildings, Cap Rates, The core six wards of Tokyo

 

判例研究(92)

原子力事故発生後の宅地販売価格の下落と原子力損害賠償
-東京高裁平成17年9月21日判決、判例時報1914号95頁-

内田 輝明

本件は、宅地を造成中に約3km離れた原子力関連施設で臨界事故が発生したため、当初予定していた価格を実際の販売価格が下回り下落損害が生じたという不動産業者が原子力事業者に対して行った損害賠償請求に対して、下落損害が生じたとは認められないとされた事例である。
本件臨界事故は、臨界状態が約20時間継続し、周辺に放射線が放出され続けるとともに、微量の放射性ガス物質も大気中に放出される国際原子力事象評価尺度(INES)レベル4(所外への大きなリスクを伴わない事故)であるが、事故の翌日には避難勧告が解除され、その翌日には屋内待避勧告も解除されるなど、2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故とは原子力事故としての規模は大きく異なるが、原子力損害賠償における不動産価値の損害の発生や相当因果関係の立証の課題をめぐる裁判例として紹介する。

 

キーワード :原子力損害、損害賠償、相当因果関係

 

調査

最近の地価動向と東日本大震災の影響について-「市街地価格指数」の調査結果(平成23年3月末現在)をふまえて-

髙岡 英生

当研究所は平成23年3月末現在の「市街地価格指数」を6月30日に発表した。
 今回調査は、3月11日に発生した東日本大震災が不動産価格に及ぼした影響を精査するため、例年と比べて約1ヵ月、 調査結果の公表を延期することとなった。
 「市街地価格指数」から見た最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

 

  • 「六大都市」の全用途平均は前期比(平成22年9月末比)で1.1%の下落となり、前回調査時(平成22年9月末現在)の前期比(平成22年3月末比)1.9%下落から下落幅が縮小した。
  • 「六大都市を除く」都市では、下落幅が縮小した都市が多かったものの、東北地方において震災の影響で大きく下落幅が拡大した都市があったため、全用途平均は前期比2.1%の下落(前回調査時も2.1%の下落)となり、結果的に前回調査と同程度の下落が継続した。
  • 地方別の地価動向を見ると、東日本大震災による被害が甚大であった岩手・宮城・福島の3県を含む「東北地方」では、前期比で商業地が5.9%下落(前回調査時4.1%下落)、住宅地が3.8%下落(同2.8%下落)、工業地が5.7%下落(同3.2%下落)、最高価格地が同7.1%下落(同4.8%下落)となった。
     「関東地方」については、平成21年9月末調査以降、前回調査まで3期連続して全用途平均の下落幅が縮小していたが、震災により一時的に不動産市場に混乱が見られたため、今回調査では前期比1.4%下落(同1.4%下落)となり、下落幅縮小の流れはいったん途切れた。
  • 三大都市圏別の地価動向を全用途平均で見ると、「東京圏」が前期比0.9%下落(同1.0%下落)、「大阪圏」が同1.3%下落(同1.7%下落)、「名古屋圏」が同0.3%下落(同0.4%下落)となり、平成21年9月末調査以降、4期連続して全ての大都市圏で下落幅が縮小している。
  • 今後半年間の地価動向については、景気動向と地価動向の連動性が高い「六大都市」では、外国人を中心とした中長期的な観光客数の減少や、電力不足による実体経済への悪影響等に対する懸念から、商業地・最高価格地では下落幅が拡大するとの見通しとなった。
     一方、「六大都市を除く」都市では、震災による被害が甚大であった都市を除けば不動産市場の混乱はほぼ終息しており、下落幅は縮小方向に向かうとの見通しとなっている。
    ※六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸 
    東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
    大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
    名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市 

キーワード :市街地価格指数、東日本大震災、東北地方、関東地方、大都市圏

 

東京及び大阪ビジネス地区におけるオフィス賃料等の予測結果(2011~2020年)

手島 健治

オフィス市場動向研究会(三鬼商事㈱と当研究所の共同研究会)では、今後のオフィス市況の大局的な動きを把握することを目的として、計量的アプローチにより将来のオフィス市況の動向を推計し、公表している。本稿では、この成果である東京ビジネス地区(都心5区)及び大阪ビジネス地区(主要6地区)におけるオフィス賃料等の予測結果をまとめている。主な結果は、①東京ビジネス地区は東日本大震災の影響で2011年の賃料は4%下落し、賃料指数は過去最低の88。2012年は復興需要等で若干回復。空室率のピークは2010年だが8%前後が続く。2013年以降の賃料は年率3~5%上昇が継続し、空室率も緩やかに低下する。その後は空室率が5%前後まで低下するが、経済成長率の予測が低いので、賃料は年率2~3%の上昇にとどまる。②大阪ビジネス地区は2009、2010年の新規供給が多いため賃料が大きく下落し、2011年は6%下落、2012年は2%下落で賃料指数は過去最低の84。空室率のピークは2010年だが11%前後が続く。2013年の大阪駅北地区での大量供給による影響は早めに現れ、空室率も少しずつ低下し、賃料は2012年に底を打つ。その後は空室率がゆっくりと低下して2020年は7%だが、経済成長率の予測が低いので、賃料は年率2~3%の上昇にとどまる。

 

キーワード :賃料予測、マクロ計量経済モデル、ヘドニック分析

 

全国のオフィスビルの現状と新耐震基準以前に竣工したオフィスビルストック
-「全国オフィスビル調査(2010年12月末時点)」結果を踏まえて-

手島 健治・菊池 慶之

日本不動産研究所は、2010年12月末時点の全国オフィスビル調査を実施し、2011年9月27日に結果を公表した。主なポイントは以下の通りである。

  • 2010年末時点の全都市のオフィスビルストックは8,929万㎡(5,578棟)となり、このうち2010年の新築が176万㎡(65棟)と総ストックの約2.0%を占めている。また、2010年の取壊しは50万㎡(43棟)となり、オフィスビルストックは126万㎡の純増となった。
  • 新耐震基準以前に竣工したオフィスビルストックは全都市で2,861万㎡(2,024棟)と総ストックの32%を占めている。中でも、福岡(44.5%)が最も高い割合を占め、以下、札幌(42.6%)、大阪(39.0%)と続いている。
  • 東京区部の地区別集計では、大手町・丸の内・有楽町地区が新築、取壊しともに多く建替えが進んでいる。また、日本橋・八重洲・京橋地区では取壊しが新築を上回り、今後ビルの建替えが進んでいくことが予想される。

キーワード :全国オフィスビル調査、オフィスビルストック、新耐震基準、オフィスビル取壊

 

 

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