不動産研究 54-3

第54巻第3号(平成24年7月) 特集:環境不動産の普及と市場形成に向けた取組

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第54巻第3号

特集:環境不動産の普及と市場形成に向けた取組

エネルギー制約下での快適・安全・持続可能な環境不動産普及のために
-環境不動産懇談会提言の紹介- 

西川 智

The March 11 Great East Japan Earthquake forced the Japanese business society to pay greater attention to energy efficiency and building sustainability. The amount of energy consumed in office and commercial buildings count for 19% of total energy consumption in Japan. The newest Japanese office buildings are equipped with latest energy saving technologies. There are good examples of energy saving retrofitting of existing buildings. To advance such moves through the real estate market and thus to save energy, MLIT convened the Sustainable Real Estate Multi-Stakeholder Forum to agree and recommend measures to promote green building investment in Japan.

CO2排出ベンチマークを活用した中小規模建築物の評価システム
-都の制度を活用したCO2排出ベンチマークの作成と評価マニュアルの公表-

東京都環境局 宇田 浩史

 都は、 低炭素で防災力と快適性を兼ね備えた 「スマートエネルギー都市」 への転換を目指している。 そのためには、 CO  2 排出量の少ない低炭素な建築物の普及を促進していく必要がある。 そこで、 都の既存の制度 (「地球温暖化対策報告書制度」) により収集された情報 (CO  2 排出量等) を活用して、 既存中小規模テナントビルのCO  2 排出量を比較評価できる評価指標 (ベンチマーク) を作成した。
このベンチマークの普及により、 不動産投資家やテナント事業者が投資先や入居先の選定時に低炭素ビルを選択するよう促し、 不動産市場で低炭素ビルが評価されることで、 ビルオーナーによる省エネ改修を推進し、 低炭素ビルの普及拡大を目指している。

キーワード:低炭素建築物、 CO 2 排出原単位(kg-CO 2 /m 2)、 評価指標(ベンチマーク)、 地球温暖化対策報告書

 

環境不動産を推進する海外イニシアティブと我が国への応用

堀江 隆一

 環境不動産を推進するには、 新築ビル以上に既存ストック対策が重要である。 欧米や豪州では、 建築物の総合的な環境性能を評価する認証制度と、 省エネ・低炭素に特化して既存中小ビルでも対応しやすい制度が共存し、 これらの認証制度を基準とした公共政策が展開されている。 民間においても、 個別ビルや不動産運用機関のサステナビリティ配慮を投資判断に組み込む動きや、 オーナーとテナントが協力して環境配慮に取り組む 「グリーンリース」 が普及しつつある。 本稿ではこれらの動向を紹介し、 我が国において既存ストックを中心とした環境不動産市場を本格的に立ち上げるのに必要と考えられる施策につき、 所見を述べる。

キーワード:環境不動産(グリーンビルディング)、 認証制度(ラべリング)、 既存ストック、 グリーンリース

 

判例研究(95)

神戸地方裁判所平成24年3月27日判決に関する諸検討
-法改正は事情変更にあたり行政契約の内容が変容したとされた事例-

Case Note of the Kobe District Court Judgment on Mar. 27, 2012

関 葉子

 自治体が区画整理に際し任意の立退きを求めた相手と合意したところ、 そのうち将来のパチンコ営業の再開まで行政財産の一時使用を認めるとした合意部分について、 その後の法令改正により事情変更が適用され、 上記合意部分はパチンコ営業を営む上で相当と認められる期間内の使用を目的とするものに変容したと判示したうえで、 代替地を用意する合意部分については行政契約としての拘束力を否定した判決について、 その特殊性と法解釈上の問題点を行政財産の一時使用許可の性質もふまえながら検討した。

キーワード:行政契約、 事情変更、 行政財産、 一時使用許可調査

 

調査

最近の地価動向について
-「市街地価格指数」の調査結果(平成24年3月末現在)をふまえて-

髙岡 英生

 当研究所は平成24年3月末現在の 「市街地価格指数」 を5月24日に発表した。 「市街地価格指数」 から見た最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

① 「六大都市」 の地価動向は、 好立地の物件について底値感が広がってきたこと等により、 下落に歯止めがかかりつつある。
  特に、 最高価格地については、 前期比 (平成23年9月末比) +0.1%となり、 平成20年3月末調査以来8期ぶりに地価が下げ止まった。
② 「六大都市を除く」 都市の地価動向は、 前回調査と同程度の下落傾向が継続している都市が多いものの、
  震災による移転需要が見られる都市や、 大規模商業施設の開業による景気持ち直し期待が見られる都市等では下落幅縮小の動きが見られた。
③ 地方別の地価動向を全用途平均で見ると、 全ての地方で下落基調が継続しているものの、 わずかながら下落幅が縮小した。
  その中でも、 「東北地方」 「近畿地方」 は相対的に大きく下落幅が縮小した。
④ 三大都市圏別の地価動向を全用途平均で見ると、 「東京圏」 が前期比0.7%下落 (前回調査:0.8%下落)、
  「大阪圏」 が前期比0.7%下落 (同:1.0%下落)、 「名古屋圏」 が前期比0.2%下落 (同:0.4%下落) となった。
⑤ 「東京圏」 を詳細に区分した 「東京区部」 「東京都下」 「神奈川県」 「埼玉県」 「千葉県」 の地価動向を用途別に見ると、
  「千葉県」 の工業地は前期比1.4%下落 (0.8%下落) となり、 比較的大きい下落幅拡大が見られた。
⑥ 今後半年間の地価動向については、 概ね今回調査と同様、 「六大都市」 「六大都市を除く」 とも下落基調が継続する中で
  下落幅が縮小するとの見通しである。 ただし、 「六大都市」 の住宅地、 最高価格地は横ばいとなる見通しである。

※六大都市:東京区部、 横浜、 名古屋、 京都、 大阪、 神戸        
東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市 
大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市   

 

キーワード:市街地価格指数、 六大都市、 最高価格地、 8期ぶり下げ止まり

 

最近の不動産投資市場の動向
-第26回不動産投資家調査結果(2012年4月1日現在)をふまえて-

廣田 裕二 菊池 慶之 谷 和也 曹 雲珍 吉野 薫 髙岡 英生

当研究所は、 「第26回不動産投資家調査」 の結果を5月24日に発表した。 今回調査は、 ヨーロッパにおけるソブリンリスクの緩和、 金融緩和を背景とした円安・株高の進行、 日本の貿易赤字の拡大などが見られる中で実施された。 ただし、 4月以降は、 ソブリンリスクの再燃を背景に東証REIT指数が大きく下落するなど不動産市場にも再び不透明感が台頭しつつある。

今回のアンケート結果の特徴は、 以下の4点に要約される。

(1) 今回調査において、 不動産投資家の今後1年間の投資に対するスタンスは、 「新規投資を積極的に行う」 が86% (前回比+7%) で、 リーマンショック後では最も高い比率となった。 一方、 「当面、 新規投資を控える」 は13% (前回比-4%) となり、 震災後に新規投資へ慎重になった投資家も徐々に市場に回帰しつつある。

(2) Aクラスビルについては、 丸の内、 大手町地区で期待利回りが4.5% (前回比0.0%) となり、 2009年10月以来、 3年連続で横ばいとなった。 また、 大阪、 名古屋についても前回に引き続き利回りは横ばいとなっている。

(3) 賃貸住宅については、 ワンルームマンションの期待利回りで城南地区が5.6% (前回比-0.1%) となり、 2010年から続いている利回りの低下傾向が継続している。 また、 大阪、 名古屋のほか主要な政令指定都市の多くでも利回りが低下した。

(4) 商業店舗については、 都心型高級専門店の期待利回りで東京の銀座地区が4.6% (前回比-0.1%) となり、 2006年10月以来5年半ぶりに利回りが低下した。 一方、 大阪、 名古屋のほか主要な政令指定都市については、 前回に引き続き利回りは横ばいとなっている。

キーワード:不動産投資家調査、 利回り、 投資意欲、 海外、 Global Real Estate Markets Survey

 

東京及び大阪ビジネス地区におけるオフィス賃料等の予測結果
(2012~2020年)

手島 健治

 オフィス市場動向研究会 (三鬼商事㈱と当研究所の共同研究会) では、 今後のオフィス市況の大局的な動きを把握することを目的として、 計量的アプローチにより将来のオフィス市況の動向を推計し、 公表している。 本稿では、 この成果である東京ビジネス地区 (都心5区) 及び大阪ビジネス地区 (主要6地区) におけるオフィス賃料等の予測結果をまとめている。 主な結果は、 ①東京ビジネス地区は、 2012年の大量供給で、 賃料はさらに下落して、 賃料指数で過去最低の85まで低下するが、 復興需要等で空室率は若干改善する。 2013年以降は回復が続き、 2015年まで賃料は年率5~7%上昇する。 その後は、 空室率が5%台まで低下するが、 経済成長率の予測が低いので、 賃料は年率2%前後の上昇にとどまる。 ②大阪ビジネス地区は、 2012年の新規供給が過去平均程度で、 賃料の下落幅は縮小するが、 2013年はグランフロント大阪等の大量供給で空室率は再び上昇し、 賃料の下落幅も拡大する。 2014年の新規供給が過去平均程度で、 ここが賃料の底となり、 過去最低を更新して77まで低下する。 2015年以降は新規供給が少ないと考えられ、 空室率は少しずつ改善して2020年は 6.4%となる。 賃料は年率3%強の上昇が続くが、 2020年でも賃料指数は94と厳しい状況が続く。

キーワード:賃料予測、 マクロ計量経済モデル、 ヘドニック分析

 

海外論壇

The Appraisal Journal Winter 2012

外国鑑定理論実務研究会

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