不動産研究 52-3

第52巻第3号(平成22年7月) 特集 : 住宅市場の活性化

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第52巻 第3号

特集 住宅市場の活性化

住宅市場における住宅情報 -諸外国の中古住宅取引における情報と専門家の役割-

齊藤 広子

This study aims at examining the contents of the information and the roles of the experts on buying and selling purchasing existing house in USA, UK, AU, France, Garmany and Italy to clarify implications for improving the dealing system of existing houses in Japan. The purchaser in their countries has enough information in purchasing an existing house, for example an efficiency assessment of the house, a statement of management and the repair cost. In this regard, it is useful for Japan to establish a new dealing system of the existing house, which the seller offers the information inspected by the experts who are in neutral position.

キーワード :住宅情報、 中古住宅、 住宅売買、 住宅市場
Key Word:Housing Information, Existing Houses, Buying and Selling, Housing Market

住宅市場整備が日本経済を救う -住宅業界人に課せられた重大な使命-

長嶋 修

新設住宅着工戸数はせいぜい50万戸規模が適正、 中古住宅やリフォーム市場は数倍規模に膨らむだろう。 我が国の空家率は13パーセントを超え、 従来路線はいずれにせよ持続不可能。 我が国は毎年19兆円程度の住宅投資を続けてきたが、 住宅資産額は一向に積み上がっていない。 新築住宅を買ったそばから価値が落ちる風潮をあらためる必要がある。 ホームインスぺクション (住宅診断) はじめ、 かつてないほど責任負担、 業務負担が重くなっている不動産仲介業をめぐる仕組みの整備や、 宅地建物取引主任者資格の厳格化等、 不動産仲介業に携わる者の品質確保等の施策により、 中古住宅市場を整備し国民に資産を持たせ、 安定した内需基盤をつくるべきだ。

キーワード :中古住宅、 ホームインスペクション、 市場整備、 内需経済

論考

年金の不動産投資の現状と今後

井上 淳二

グローバルな金融危機の影響により二年続けて大きな痛手を被った年金運用は、 昨年度の株式市況の回復によってようやく一息ついた。 しかし足元ではギリシャ問題をきっかけに再び国内外の市況に不透明感が漂い始め、 その影響が懸念されている。 こうしたボラタイルな株式市場への過度な依存から脱却すべく、 すでに多くの基金ではオルタナティブ投資への取り組みが進められているが、 その7割はヘッジファンドに集中しているのが現状である。 そこで本稿では、 欧米に比べて立ち遅れている日本の年金の不動産投資に焦点を当て、 その現状や課題を明らかにし、 今後の方向について年金コンサルタントの視点から考察を行う。 尚、 本稿で示した見解はあくまで著者個人の考えに基づくものであり、 著者が所属する組織の公式な見解を示したものではないことに留意されたい。

キーワード :年金、 オルタナティブ投資、 オープンエンドファンド

判例研究(88)

違法な公有財産管理と違法性を解消するための手段 -最高裁大法廷平成22 年1月20 日判決(平成19 年(行ツ)第260 号)-

西嶋 淳

歴史的な経緯により社寺等に無償で提供されている国・公有地については、 憲法の制定時より政教分離原則等との関係において問題が認識され、 このような状態の解消が制度的にも図られてきた。 しかし、 憲法制定後60年以上経過してもなお、 わが国には社寺等の敷地として無償で提供されている公有地が相当数残っているといわれている。 このような公有地の違法な管理状態の解消を図るための手段については、 様々な観点での検討が望まれている。

キーワード :寄附、 政教分離原則、 目的効果基準、 国有境内地処分法、 譲与

調査

最近の地価動向について -「市街地価格指数」の調査結果(平成22 年3月末現在)をふまえて-

髙岡英生

日本不動産研究所は平成22年3月末現在の 「市街地価格指数」 を5月20日に発表した。 「市街地価格指数」 から見た最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

  • 前回調査 (平成21年9月末現在) では全ての地域・用途で地価が下落していたが、 今回調査では 「東京区部」 の住宅地において半年間 (平成21年9月末~平成22年3月末) の変動率が0.0%となり、 5期 (2年半) ぶりに地価が下げ止まった。
  • 全国」 の全用途平均は前期比 (平成21年9月末比、 以下同様) 2.3%下落 (前回調査時2.4%下落) となり、 前回調査とほぼ同程度の下落基調が継続している。
  • 商業地については、 「六大都市」 で前期比5.4%下落 (前回調査時6.9%下落) となり、 前回調査に引き続き、 下落幅は縮小した。 ただし、 近い将来においてオフィスの大量供給が予定されている名古屋や大阪では大幅な地価下落が継続している地点も残っているため、 「六大都市」 の商業地は全ての地域・用途で最大の下落率を記録した。
  • 住宅地については、 上記のとおり 「東京区部」 で地価が下げ止まった。 三大都市圏別に見ても、 各圏域で下落幅は縮小したが、 「東京圏」 (前回:1.7%下落→今回:1.2%下落) 「名古屋圏」 (前回:1.6%下落→今回:0.7%下落) と比較すると、 「大阪圏」 (前回:2.0%下落→今回:1.9%下落) は下落幅縮小の程度が小さい。
  • 工業地については、 企業設備投資の減少にようやく歯止めが掛かったばかりであり、 土地資本に対する投資意欲は回復していないため、 「六大都市」 においても下落幅縮小の程度はわずか (前回:2.6%下落→今回:2.4%下落) である。
  • 今後の見通しについては、 ほぼ全ての地域・用途で下落幅は縮小するが、 下落基調は継続する見通しである。
  • 三大都市圏別では、 「東京圏」 「名古屋圏」 と比較して、 「大阪圏」 における下落幅縮小の程度が小さいが、 北ヤード開発によるオフィス供給過剰懸念、 マンション在庫調整の遅れ等が原因と考えられる。

キーワード :市街地価格指数、下げ止まり、下落継続、大阪圏の地価動向

最近の不動産投資市場の動向について -第22 回不動産投資家調査結果(2010 年4月1日現在)をふまえて-

廣田 裕二、菊池 慶之、林 述斌、曹 雲珍、髙岡 英生

日本不動産研究所は、 「第22回不動産投資家調査」 の結果を5月20日に発表した。  今回のアンケートは、 J-REITによる公募増資と物件取得の再開や海外ファンド等の日本の不動産投資市場への再参入がみられる一方、 オフィス空室率の上昇と百貨店の閉店が相次ぐ環境の中で実施された。 今回のアンケートの特徴は、 以下の4点に集約される。

  • 投資対象不動産の利回りは、 前回ほとんどの用途・地域において上昇幅が縮小していたが、 今回はほとんどの用途・地域でほぼ横ばいとなった。
  • 不動産への新規投資意欲は、 前々回の45%を底に前回60%まで回復していたが、 今回さらに73%となり回復傾向が鮮明になった。 一方、 新規投資を控える投資家は、 前回の31%から今回は22%にまで減少している。
  • オフィス賃料水準の予想は、 東京都内の各地区では前回よりも下落予想が減少し、 5年後までには各地区とも現状の水準に戻る予想となった。 政令指定都市の各地区では前回と同程度の下落予想となった。
  • 丸の内・大手町地区の期待利回りは、 第17回 (2007年10月) をピークに、 その後上昇傾向が続いてきたが、 第20回 (2009年4月) の4.5%から3期連続で横ばいとなった。

今回の調査結果から、 投資用不動産の利回りは安定に向かいつつあり、 投資意欲も回復基調に向かいつつあることが読みとれる。 とりわけ、 賃貸住宅の利回りは5期 (2年半) ぶりに低下する地区も現れた。 このまま景気回復基調が持続すれば、 東京都内から地方に市況の回復が広がっていく可能性もある。
 なお今回、 新たな取り組みとして、 不動産投資家調査を海外主要都市のオフィス市場に拡大して実施した。 本稿では、 海外調査を実施するに至った背景等と、 調査内容・結果の概要を示している。

キーワード :不動産投資家調査、 利回り、 J-REIT、 投資意欲、 海外、 Global Real Estate Markets Survey

海外不動産

上海と東京における住宅マーケットの発展段階に関する考察

菊池 慶之、髙岡 英生、谷 和也、林 述斌

近年、 中国の経済状況が日本のどの時期に当たるのか活発な議論がなされている。 これは、 中国の経済発展が、 日本の戦後の経済成長を想起させることによるものである。 本稿では上海と東京の住宅マーケットを比較し考察を加えた。 考察の結果、 上海の経済水準は日本の1970年代前半の状況に似ているが、 住宅需要を取巻く状況は東京とは大きく異なり、 今後大きな構造変化が生ずる可能性が示唆された。 このため、 需要構造に関するより詳細な調査が必要になると思われる。
なお、 本稿は上海の住宅マーケットの特徴、 住宅取得行動の実態、 住宅需要の予測などを分析する研究プロジェクトの一環であり、 本稿は第51巻4号の 「上海における住宅マーケット形成の背景と住宅ストックの特徴」 に引き続き2回目の成果報告に当たるものである。

キーワード :上海、 東京、 住宅マーケット、 発展段階、 マンション価格
Key Word: Shanghai, Tokyo, Housing Market, Development Stages, Price of Condominium

海外論壇

The Appraisal Journal Winter 2010

外国鑑定理論実務研究会

資料

日本不動産研究所図書室 主な新規受入図書リスト -2010 年2 月中旬~2010 年5 月下旬-

 

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