不動産研究 52-2

第52巻第2号(平成22年4月) 特集 : 不動産投資市場の構造転換

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第52巻 第2号

特集 不動産投資市場の構造転換

不動産と金融の転換

高田 創、柴崎 健

不動産を中心とした資産バブルは信用活動と過度な期待が合わさって生じる現象であり、その崩壊は実体経済対比資産市場が過大に膨張したことの調整である。不動産市場の変化が国富の変動を通じて経済主体のリスク許容度に変化を与えた可能性が高く、日本の場合、それがスパイラル的に経済に対してマイナスに機能した。加えて、不動産金融の転換がリスク性資金の供給を暗黙裡に低下させた面も加わった。今後を展望すれば、不動産や株式等のリスク性資産の保有状況やその金融のあり方を改めて考え、日本として不動産を中心として国富を作りあげる必要がある。

キーワード :バランスシート調整、不動産金融、プロシクリカル性、擬似エクイティ、国富、SWF

構造変化を遂げた日本の不動産投資市場の成熟過程とリーマン・ショック後の展望

澤田 考士

不動産価格指数の歪み

清水千弘

資産価格の急激な上昇とその後の下落は、多くの国に対して深刻な経済問題を発生させてきた。そのような中で、不動産価格指数に関する国際的なガイドラインが整備されようとしている。本稿は、現在進められている不動産価格指数の国際ガイドラインの論点の中核である不動産データと推計方法についての議論を紹介するとともに、その背後にある経済理論的・統計的な問題を整理することを目的としたものである。不動産市場は、それぞれの国において、市場性質が異なる。また、わが国において取引価格情報の整備の重要性が指摘されて久しいが、依然としてそれが十分に実現できていないことからも明らかなように、入手可能な情報にも大きな格差がある。そのような制約を前提として、それぞれの国において価格指数を整備していくことが要請されている。わが国においては、どのような制約の中でどのような判断をしていくべきか。その課題を整理する。

キーワード :品質調整済み価格指数、ヘドニック指数、リピートセールス指数、情報の非対称性
Key Word:Quality adjustment price index, Hedonic method, Repeat sales method, Asymmetry of information

論考

財務諸表のための価格等調査 -財務諸表作成における不動産時価と、財務諸表監査の視点-

前野 芳子

昨今の企業を取り巻く経済環境は、グローバル化、情報ネットワーク化が過去とは比較にならないくらい進み、その結果企業のディスクロージャーにおいてもその内容を根底から、加速度的に変化させてきている。非財務情報、将来指向的情報さらには無形資産に関する情報といった、旧来の財務報告においては埒外に置かれてきた情報の重要性が飛躍的に増大してきているのである。このような新たに脚光をあびてきている情報との係わり合いのなかで重要な役割をになっているものの一つに不動産等の時価情報がある。本稿では、この不動産に関する時価情報の財務情報における位置を解説するとともに、それら重要な位置付けにある不動産時価情報に対する「財務諸表のための価格調査の実施に関する基本的考え方」の施行が果たす役割と影響を論じる。

キーワード :市場価格、合理的に算定された価額

2000年以降のオフィスビル開発の特徴  -東京都心5区の町丁目データを利用した分析-

菊池 慶之

2000年以降の東京都心5区におけるオフィスビル開発は、敷地の大規模化と建築物の高層化によるオフィスビルの大型化に特徴がみられる。本稿では、このようなオフィス開発の大型化の要因を、GISを利用した町丁目データから分析し、その背景を検討した。検討の結果、東京都心5区におけるオフィス開発大型化の背景には、規制緩和、不動産証券化、本社機能の集約化など、需要・供給両面の構造変化があることが示された。また、このような大型のオフィスビル開発は、スポット的な機能集積を促すことにより、オフィス立地の都心回帰を牽引するとともに、都心内においても都市機能の配置を二極化させていることが明らかになった。このため、オフィスビル開発の収益性や周辺への影響を測る上で、個別の地域的要因の重要性が高まりつつあると言えよう。

キーワード :オフィスビル開発、大型化、規制緩和、不動産証券化、本社機能の集約化

判例研究(87)

「中津リバーサイドコーポ住民活動協力金事件」上告審判決 -最高裁第三小法廷平成22年1月26日判決(平成20年(受)第666号)-

北河 隆之

調査

住宅着工戸数の激減と山林素地及び山元立木価格の動向 -平成21年調査結果をふまえて-

八木 正房

一時回復しかけた住宅着工戸数は平成20年秋季からの世界景気の後退もあって、平成20年6月の月間10万戸台から21年3月には6万戸台へ減少した。一方では、2006年12月23日付けロシア連邦政府政令第795号で丸太輸出関税引き上げ予定が明らかになって以降、木材工場では国産材利用にシフトしており、製材工場への国産針葉樹供給量は増加を続け、工場での国産材シェアは6割を超えている。また、合板用素材供給量も北洋材・南洋材が減少し国産材が急速に増加している。
このように国産材需要が回復する中、木材価格は平成20年夏季以降、一時的に回復もみられたが、再び低迷している。  本稿では、住宅着工戸数の激減とロシアの素材輸出制限措置の影響に視点をあわせて国内木材需要の動向を検証するとともに、日本不動産研究所が「山林素地及び山元立木価格調」として昨年9月10日発表した内容に加えてその後加工分析した内容を併せ紹介する。

海外論壇

The Appraisal Journal Fall 2009

外国鑑定理論実務研究会

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審査付論文募集のご案内

資料

日本不動産研究所図書室 主な新規受入図書リスト -2009年12月初旬~2010年2月中旬-

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