祇園のまちの界隈性の維持・継承 景観保全修景計画、景観協定締結、地域活動を評価し地場に相応しい建築規制への転換

Vol2.
京都祇園、独特の風情を
維持・継承し地場産業活性化

Vol2. 京都祇園、独特の風情を維持・継承し地場産業活性化

東京藝術大学美術学部建築科 講師 河村 茂 氏 博士(工学)

12.19 UPDATE

祇園のまちの界隈性の維持・継承

景観保全修景計画の策定と事業実施

 京都市は、この民民での地主と借主との良好な関係を基礎に醸し出されている、伝統的界隈性を公的な価値(社会的価値をもち維持保全すべき対象)ととらえ、祇園町南側地区の自治活動の活性化を願って、行政と住民代表とが連携してまちづくりに取り組むため、1996年南側地区5町の連合会として「祇園町南側地区協議会(約300世帯が会員となる)」を設立、この場において協議を進め1999年6月に市街地景観整備条例に基づき、歴史的景観保全修景地区(祇園町南地区は、約6.6ha)に指定、あわせて関係者と協議調整し景観保全修景計画(建築物等の位置、規模、高さや階数など形態、また意匠、色彩、外観様式、屋根形状等に係る基準を内容とする)をまとめ告示した。

 修景地区は、ものの保存ではなく伝統的歴史的な意匠の継承・更新を図っていくことを目的としており、これにあわせまちづくりの風習や作法の継承・発展をめざしている。従って、伝統的建造物群保存地区と違い建築基準法上の適用除外とか緩和はなく、税の優遇措置もない。これは地元がこの地を文化財にはしたくないという意向を強くもち、柔らかい仕組みでやっていきたいということでそうなった。地区指定と修景計画の策定に伴い建築確認申請を要する建築更新に対しては、地域が有する歴史的な建築意匠に沿ったデザイン(市長承認)が求められるようになった。これにあわせ歴史的意匠を保持する建物の外観修繕に対し、その工事費を助成する補助事業(600万円を限度、補助率2/3)もスタートした(毎年25軒ほどの実績)

 当協議会は、建築確認申請を要しない工事についても協議することが重要であり、また屋外広告物の掲出についても地域ルールが必要ということで、全員が一致し「景観協定」を締結、京都市景観行政とも歩調を合わせ活動している。こうした良好な町並み景観づくりを、まちづくりの側面から専門的に進めていくため、2001年にNPO法人祇園町南側地区まちづくり協議会が設立された。このまち協では、まずハード面での対応として道路の整備が大事と考え、地区のメインストリートである花見小路通の電線電柱類の整理・地中化と路面の石畳化を図ることになった。また、2002年5月には日本中央競馬会の支援を受け、市の事業として私道の石畳化事業が開始される。

景観協定締結(1999年5月) 景観協定運営委員会は次の点について事前協議する。

①建築物・工作物の新築等および外観に係る修繕等を行う場合は「保全修景計画」の基準に適合すること。
②看板・照明等の屋外広告物を掲出する場合は自家用に限定し、町並み景観を損なわない形状・規模とし、
 階の軒より上に設けないこと。立て看板・のぼりの類は掲出しないこと。
③自動販売機は側面を覆い、色彩は周囲の景観になじむものであること。
④軒先テントは設置しないこと。

 しかし、この祇園のまち独特の風情を保持していくことは、並大抵なことではない。なぜならそこには場所のもつ固有な価値など認めない、近代化原理に基づく建築基準法等の画一的な法規制が、全国一律的な建築デザインを強いてくるからである。即ち、この地は京都市の都心近くにあり建築物が密集していることから、都市計画としては準防火地域が指定され、中規模以上の建築物を木造とすることを制限している。このためこれまでは家屋を建替えようとすると、どうしても鉄筋コンクリート造や鉄骨造とならざるをえなかった。また、祇園のまちは道路が狭いため、建築基準法により建築時には道路拡幅のため建物はセットバックを要請され、折角いいあんばいに風情香る町並みが形成されているにもかかわらず、これが徐々に壊れていく事態を招いていた。

地場に相応しい建築規制への転換

 固有性を維持増進する法制度の運用と地域活動の展開 そんなこともあり昨今、この地がもつ界隈性が以前に比べ薄っぺらなものとなってきたことを、人々は肌で感じ取っていた。このままでは、この場所固有の価値を維持できないと考え、市は歴史的景観保全修景地区の指定をふまえ、2002年10月「伝統的景観保全に係わる防火上の措置に関する条例」を制定、ここに定められた独自の防火基準に適合する建築物に対しては、防火地域・準防火地域の指定を解除することになった。

 また、地元組織のNPO法人まちづくり協議会(法人認証2001年9月)では、まち並み景観の保全には景観や私道の整備のほか、木造建築密集地で道路も狭いという地域実態をふまえ、木造建築が建ち並ぶまちの防火安全性の確保が重要として、年に1~2回の定期的(大規模)な防災訓練(バケツリレー、放水、防災講演会など)を実施、あわせて私設消火栓や火災警報器の設置、また木造建物耐震診断受診の啓発など、防災活動を包括的に継続して展開してきている。市ではこれらの活動等を評価し、2003年に建築基準法が改正(法43条の2に基づく条例が追加される)されたのをうけ、2006年3月に「歴史的細街路にのみ接する建築物の制限に関する条例」を制定し、建築基準法第42条第3項に基づく道路、即ち2項道路(現在、幅員4m未満であるが徐々に4mの道路として整備される道路)よりさらに狭い道路を恒久的に認めることになった。

 このようにして細街路の幅員が1間半(2m70cm)しかない祇園のまちも、この道路が建築基準法上の道路として位置づけられたことで、建物が将来ともにセットバックしなくてもすむようになった。また、この歴史的細街路に2m以上接した敷地であって、地上階数が3以下の建物で居室の壁や天井の室内に面する部分を難燃材料で仕上げるとともに、3階の居室から屋外の出口に通じる避難経路沿いの壁や天井の室内に面する部分を準不燃材料で仕上げるものは、伝統的な木造であっても建築可能となった。このように地域固有の価値に着目し、必要な法的対応を行うことで、長年、人々の間で親しまれ継承されてきた、細街路沿いに建ち並ぶ茶屋形式の木造建築物によって醸し出される、祇園のまち独特の界隈性、場所のもつ固有性が維持されることになった。これでようやく地場産業活性化のための器の整備にめどがついた。あとは地域の関係者の活動状況によるところまできた。 なお、この地では近年、この独特の界隈性を維持しようと、お茶屋とこれに関連する業種の融合による発展をめざし、計画的に町並みの保全修復整備を進めるべく、2011年12月、地元住民組織が主体となり将来のまちづくりの目標・方向を街並み誘導型地区計画(高さ15m、屋根勾配3/10~4.5/10、立体的な壁面の後退など)にまとめ(業種制限も用途規制として規定)、まちづくりのルールを確立、「花街・祇園の風情・情緒」の維持継承に努めている。このことをうけ前面道路の幅員に応じた容積率制限と道路斜線制限が緩和されている。また、道路交差部分における角切りの設置の有無も、条例により市長の認定で対応可能とした。

 

目次

  1. まちづくりの歴史的沿革
  2. まちの界隈性を生み出す仕組み
    建築協定付きの借地、固定資産税+αの借地料
  3. 祇園のまちの界隈性の維持・継承
    景観保全修景計画、景観協定締結、地域活動を評価し地場に相応しい建築規制への転換
  4. まちを使うことでまちづくりに参加しよう